![]() |
|||||||||
■ 宗教新聞 神道つれづれ ●31●
今回は、近畿圏を始め、その周辺に点在する元伊勢伝承の背景にある神道五部書と、それを教典とした伊勢神道に就いて触れたい。 伊勢神道とは鎌倉時代に伊勢の外宮・豊受大神宮の祠官の度會氏によって創唱され、度會神道または外宮神道ともいわれる学派神道である。学生時代、神道学の安津素彦博士は、外宮を中心とした信仰を唱えたものであるから伊勢神道という名称は相応しくないと言われた覚えがある。それは措き、当時、世に神仏を習合させた本地垂迹の教えが席捲するなか、仏教や老荘思想を包含しながらも神道サイドから発信された神道教説が、伊勢神道・外宮神道なのである。 この伊勢神道の発生については明らかでなく諸説ある。その流れを鎌倉・室町期のそれを前期とし、発生より三百数十年以上経った江戸初期より中期にかけての普及を後期として区別する。前期にはこれを拡めた度會行忠・度會家行・度會常昌(つねよし)等の名が挙がる。 伊勢神道の勃興には、文永の役(一二七四年)と七年後の弘安の役の、二度にわたる蒙古襲来によって引き起こされた社会的混乱のなかでナショナリズムが高まったことと、後醍醐天皇が鎌倉幕府を倒して建武の中興が成り、更にその後の南北朝の対立で、政治的・軍事的に力を持つようになった天皇を中心とする神国思想が強まって来たことなどが影響している。すなわち神仏を合体させ仏を主、神を従とした本地垂迹説を排除し、神を本とし仏を従とする教理を体系的に整えた、初めて神道側が唱えた神道神学とも云うべきものだ。 そして、天照大神を祀る内宮に対し、豊受大神を祀る外宮が優位にあるという思想的意図と、その正統さの根拠を説くという作為的な政略性も込められている。豊受大神は國常立尊・天御中主神・大元神・御饌都神と異名であるが同じ神であり、天照大神の出現以前の神で至高尊貴にして最高神であるとする。また、内外宮が相俟って神威を揚げ、世の人々の救済にあたるという二宮一光説も掲げている。後期となる江戸時代の中頃には、度會延佳(のぶよし)が、儒教や陰陽五行などの思想をも取り入れ、道徳的な教説を唱えている。 この伊勢神道の根本経典とされ、教義の核を為すのが神道五部書である。それは (一)天照坐伊勢二所皇太神宮御鎮座次第記 (二)伊勢二所皇太神宮御鎮座傳記 (三)豊受皇太神御鎮座本紀 (四)造伊勢二所太神宮寶基本紀 (五)倭姫命世記
このように伊勢神道において重要な扱いを受けた神道五部書だが、それぞれが奥書には上古の撰述の体裁を執っているがそれはすべて偽りで、遡っても鎌倉初期あたりに成立させたものだ。次第記は奈良朝以前、神主・阿波羅波命が撰述したようにされているので阿波羅波記ともいわれている。傳記は、皇大神宮の大神主だった彦和志理命が雄略天皇二十二年(四七八年)に詔命を受けて撰述した如く記されている。猿田彦神の子孫とされる太田命が五十鈴川の上流で皇大神を迎えた記述などがあるところから、大田命訓傳ともいわれている。また御鎮座本紀は、大神宮の大神主の飛鳥により撰されたことになっていることで、飛鳥記とも称されている。五部書のなかで最初に著され最極秘本とされる寶基本紀は、神龜二年(七二五年)の撰としている。実際は五百年以上も後の鎌倉初期に書かれたもの。そして倭姫命世記は、焼失して所在不明の太神宮本紀の下巻ともいわれる。先の大神主飛鳥の孫である御気(みけ)が倭姫命から伝えられたものを書写し、同じく大神宮の禰宜の五月麻呂が、神護景雲二年(七六八年)に撰録したものとしている。だがこれとてまったくの虚説だ。 この五部書は、最初に(四)寶基本紀が成り、最後に(五)倭姫命世記が編されたともいわれていたが、現在では、寶基本紀に拠って倭姫命世記が書かれ、この二書を視界に入れながら(二)傳記が出され、更に、この傳記を基として残りの二書の(一)次第記、(三)本紀が成立したというのが定説のようだ。そのためにそれらの書物の間での転用重複部分が多い。鎌倉時代の前期とされる頃は、あとから出された(一)・(二)・(三)での三部書と云われていたものが、後期になり宗教的主張を鮮明にした(四)・(五)を加え五部書としたもの。ゆえに神道五部書という名称は近世のもので新しい。 |
|||||||||
| TOP > 連載コラム > 神道つれづれ | |||||||||
| 伝統文化と新しい文明の研究機構 NPO法人「にっぽん文明研究所」 ※当研究所の活動はNPO法第2条2項に基づき宗教の教義を広め、儀式行事を行い、 及び信者を教化育成することを主たる目的とするものではございません。 |
|||||||||
| Copyrightⓒ NPO Nippon Civilization Institute since 2004,All rights reserved |
|||||||||