Posts Tagged ‘宣命体’
延喜式に記載された大祓詞の形態を変えたものに、中臣祓詞・中臣祭文がある。小野博士はこれを捉え、“広くこれを唱へるが、それは(延喜)式の大祓詞を若干改作したもので、宣命体を奏上体にしたり、「天つ祝詞の太祝詞事を宣れ」「かく宣らば」の間を区切ったりして、原義を失してゐるところがある。然し、世上広く用いられ、種々の変形も生じた―”(中略)
奏上体とは神に向かい直接申し上げる祝詞のことである。宣命体(宣下体)とは、天皇の仰せを、集合している皇族以下百官に宣(の)べ聞かせるもの(この場合宣下体とも)と、神を祀る祝部や神主に申し聞かせて神に奏上させるといった、間接的に宣べ伝えるものとがある。
延喜式に記されているのは宣命体としての大祓詞だが、小野博士が指摘されるように参集した人々に宣(の)べ聞かせる部分を省いてしまい、神へ直接申し上げる奏上体に変えてしまったのが中臣祓詞・中臣祭文である。これはそのほかにも若干の改竄をされているが、明治以降、現在に至るまで一般的に奉唱されている大祓詞は、延喜式に著された大祓詞と中臣祓詞とが混同されているものなのだ。
【 神道つれづれ (25)大祓詞と天津祝詞の太祝詞(上)より抜粋 】
- -延喜式巻第八 神祇八-六月晦大祓 〔十二月も此に准へ〕 宣命体(宣下体)
青木紀元 著 『祝詞全評釈』より - 大祓詞 神社本廳藏版 より 奏上体
- 中臣祓詞 神仙道祝詞より 奏上体
- 中臣祓詞 『吉田叢書』第四編所収 奏上体

延喜式(九条家本)
このコラムについてのご意見・感想をいただくことが多くなった。
今回の“太祝詞事”については、「古代のロマンが秘められている。」などと講座で語ることがあるが、特にこの度は、貴重なご意見を幾つか頂戴した。毎回このコラムをお読みになっておられるという神道界の大御所・山蔭神道の山蔭基央先生からも、お励ましと過分なお褒めのご丁重なお手紙を頂き、浅学愚才の身、唯々、恐縮赤面の極みを味わっている次第…。
山蔭先生はお手紙のなかで「混同されている大祓詞」論争が、戦前戦後を通じてなされていることをご指摘されている。山蔭神道家にも書かれた時期は不明だが伝えられる大祓詞が存在し、ご希望ならお送りする、といった有り難いお申し出も頂いた。この大祓詞の出処をたどれば、吉田神道家の分家で、神祇大副・正二位 萩原員幹の嫡男員衡から伝えられるもの。そして、中納言・藤原山蔭卿、吉田神社の創建を由緒として「山蔭神道」を称し、幕末の神道家として活躍。それが光格天皇の庶子、従三位・左中将中山忠伊に伝えられ、現在の山蔭先生の許に残されたとのこと。このようなかたちで現存する大祓詞に太祝詞が秘められていたかどうかは不明だが、山蔭神道関係の文書に就いてはじっくり勉強させて頂きたいと思っている。